田中圭一さんの漫画エッセイ「うつヌケ」を読んで

田中圭一さんの「うつヌケ」を読みました。自身のうつ経験と、同じようにうつ病にかかり、克服した著名人へのインタビューをまとめた漫画です。

漫画なので読みやすく、うつ病にかかり、回復するまでの気持ちの変化が分かりやすく描かれています。家族や友人がうつにかかり、何か助けになりたい、どんな価値観を持ち、どんな気持ちを味わっているのかを理解したい、という人にはおすすめの本だと思います。

ただ、うつ病にかかっている当人が読んで何か助けを得られるかというと、必ずしもそうではないのではないかと感じました。

まず一つには、この本に登場するのは作家や漫画家など、社会に出て活躍しており、そのキャリアを積む途中で突然うつ病にかかったという方がほとんどです。

実際にはうつ病は誰でも、どんな立場の人でもかかる恐れのある病気ですから、現在うつ病を患っている人の中には、「自分はこの人たちほど社会に出て活躍しておらず何も生み出していないのに、うつ病にかかってしまった」と、状況の違いをマイナスにとらえてしまう可能性があると感じました。


また、登場人物の多くはゆっくり回復するための時間や経済状況、助けを申し出る家族や友人といったリソースに恵まれています。周囲のあたたかい見守りや声かけをきっかけにうつ病から抜け出せた、という経験談が多く含まれていました。

その一方で、うつ病は、周りの理解を得るのに時間がかかる病気だと思います。家族から「ただ怠けているだけだ」「甘えのあらわれだ」と理解のない言葉をかけられたりする人は少なくありません。

それは一概にその人の家族が悪いというわけではなく、ただ理解しにくい病気だということが大きな理由だと個人的には思います。傍から見れば、血を流しているわけでも、立ち上がれないほどの高熱を出すわけでもない病気なので、大病をしているようには見えない人もいます。

また、うつ病患者は生来まじめで周囲に気を遣う「いい人」が多いので、家族がその「いい人」像を忘れられず、どうか元に戻ってほしい、病気であることを認めたくない、という気持ちから、つい「大した事ないのでは」といった発言をしてしまうせいもあるでしょう。

話が少しそれましたが、本人の状況を周りがすぐに理解し、見守り、適切なタイミングで適切な言葉かけをするというのは、よほど恵まれていない限り望めない環境ではないかと感じます。まさに今、うつで苦しんでいる人の中には、「この人にはあたたかい家族がいるのに、自分は…」と、比較してさらに落ち込みを深めてしまう人もいるのではないかと思います。


この本にもある通り、うつにかかりやすい人のタイプは共通点があっても、うつにかかったきっかけや症状、置かれている環境、回復までの過程は千差万別です。つまり、その人に合う回復方法は一人ひとり異なり、「これさえやれば治る」「この人と同じようになれば治る」というものではありません。いわばオーダーメイドの回復方法が必要なわけです。

これはその人に合った薬を病気の専門家である医師が処方するように、心の回復の専門家と一緒に歩むべきプロセスではないかと感じます。


以上の理由から、「うつヌケ」は「うつ病を理解したい人にはおすすめ、うつ病からの回復を目指す人にはおすすめしない」と感じました。

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